世界の長編小説に挑む!
楽園への道
『楽園への道』には実在した二人の人物が登場します。画家のゴーギャンとその祖母フローラ・トリスタンです。ペルー出身の著者バルガス=リョサは、フランス出身の二人が、それぞれが生きた時代にユートピアを夢見て果敢に行動したこと、そして南米ペルーで暮らした体験という共通点に着目して、物語を進めます。
十九世紀半ばのヨーロッパでフローラはフェミニストの先駆者となるとともに、社会的弱者だった労働者に団結を促す革命家として生きます。男性中心主義を批判し、言い寄る男性をはねつけるなど、痛快な言動が生き生きと描かれています。ゴーギャンは当時のパリの画壇の主流から外れながら、タヒチを創作の場とすることで、独自の画風を確立します。彼の意識や行動、自分の中の女性性の発見、絵画に描き込んだ現地人女性たちとの関係も知ることができます。二人の物語を交互に展開させる著者特有の構成とリアリズムの文体によって、人物や風景が立体的に浮かび上がり、読者の目の前に美しいと同時に醜悪でもある世界が鮮やかに広がることでしょう。
(野谷文昭)