世界の長編小説に挑む!

ユリシーズ

ジェイムズ・ジョイス 著(柳瀬尚紀 訳)
河出書房新社

 訳が分からないかもしれないけれど、読破できないかもしれないけれど、大学生である今、手に取ってもらいたいのが『ユリシーズ』です。アイルランド出身の作家、ジェイムズ・ジョイスにより書かれ、1922年に出版されたこの作品は、多くの文学作家に影響を与えたモダニスト文学の傑作と称されています。同時に、その難解さでも有名です。アイルランドの首都、ダブリンの街を舞台に、1904年6月16日の1日の様子が、主要な登場人物の行動と視点、思考をとおして断片的に表現されます。内的独白と言われる手法や、ことば遊び、いたるところに埋め込まれた象徴的な含意や引用、そして一定しない実験的な文体など、物語の世界に入り込むことを容易には許してくれません。巧みなことばが創り上げる世界を楽しむためには、広い知識と多岐にわたる分野での深い造詣が必要だと痛感するでしょう。だからこそ、ぜひみなさんにこの世界を体験してもらいたいのです。この作品は、みなさんの知識の種となり、発想の糧となるでしょう。神話や伝説、そして神学、哲学、文学、さらにはアイルランドの歴史や社会、見知らぬ地名、そして人間の性について、まだ知らない世界への扉となってくれる一冊です。

(吉本美佳)