世界の長編小説に挑む!

真夜中の子どもたち(上・下)

サルマン・ラシュディ 著(寺門泰彦 訳)
岩波文庫

 1947年8月15日の真夜中の12時、大英帝国からインドとパキスタンが独立。世界各地の植民地における「脱植民地化」の幕開けです。その真夜中から1時間以内にインドで生まれた子どもが、1001人いました。その全員が特殊な能力を与えられた超能力者。これはもちろん史実ではなく、サルマン・ラシュディの『真夜中の子供たち』の物語です。作者もこの年にボンベイ(ムンバイ)に生まれた英語作家で、現代の世界文学を代表する作家の1人です。真夜中の子供たちはその後、本編の主人公サリーム・シナイのテレパシーにより交信しながら、独立後のインドの激動の歴史を生きていきます。SF的なフィクションと現実を絡み合わせたこのような手法は、マジック・リアリズムと呼ばれます。作者自身、物語のマジシャンといえる作家で、さまざまな物語を次々に繰り出して読者の気をそらせません。ただし、重厚なテーマもそこでは追究されています。インドが独立後も抱え続けた社会的な諸問題。ひいては現在の「グローバルサウス」においても消え残っていると思われる諸問題。そのような問題と格闘している点にも、世界文学としての本作品の重要性があります。

(木村茂雄)