世界の長編小説に挑む!
魔の山(上・下)
二十世紀初めのドイツ、二十歳すぎの青年が病気のいとこを見舞うために、山の中の結核療養所を訪れます。すでにエンジニアとして就職も決まっていたこのハンス・カストルプは三週間の予定でこの地に赴きましたが、自身も結核に罹患して、この浮世離れした山の薄い空気の中に結局、七年間滞在することになります。
「死と病」が濃く立ち込めるその山の地でハンスは、ヒューマニストでヨーロッパ的合理主義者とその論敵、アジア的エキゾティズムをまとう美しい女性など、第一次大戦期のヨーロッパの木魂のような様々な人に触れ、少しずつ変わっていきます。冒頭、語り手に「ひとりの単純な青年」と呼ばれた主人公が「人生の誠実な厄介息子」と表現されるようになる圧巻の最後、シューベルトの『菩提樹』を低く口ずさみながら、山から下りたハンスが向かっているのは……?
作家が「主人公は、“人は病と死を深く経験しなければ、本物の悟りや健康には到達できない”と気づく」と種明かししているこの小説を、軍靴の音も遠くはなく聞こえるようになったこの時代に、じっくり体験してほしいと思います
(金関ふき子)