世界の長編小説に挑む!

豊饒の海

三島由紀夫 著
新潮文庫

 『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の四部作。45歳の三島は、この最終巻を書き終えて、自刃しました。脇腹に三つの黒子(ほくろ)のある4人の若者が各巻に登場する壮大な輪廻転生の物語です。緻密をきわめる文体に加えて、仏教の晦渋な唯識論の解釈をめぐる文章が延々とつづいたりして、一言一句理解しようとしたら最後までたどり着けなくなる恐れあり。気にせずに、読めるところだけ読んでいけばいいでしょう。『春の雪』は、一度読むと忘れられない、美しく哀しい恋の物語。必読です。

「私たちの歩いている道は、道ではなくて桟橋ですから、どこかでそれが終って、海がはじまるのは仕方がございませんわ。」(『春の雪』)この悲恋の行方は、『天人五衰』までつづきます。

「勲の心には暗い滝が落ちた。」(『奔馬』)

「からみ合った一双の醜い巨樹の間(はざま)に、どうして一茎の薔薇が芽生えよう。」(『暁の寺』)

「衰えることが病であれば、衰えることの根本原因である肉体こそ病だった。」(『天人五衰』)

「美」「夢」「悪」「死」の深淵に突き落とされる『豊饒の海』の濃密な織物をくぐり抜けた先に、絶望をみるか、光をみるかは、あなたしだい。

(エリス俊子 )