世界の長編小説に挑む!
ペスト
アルベール・カミュ(1913-1969)はアルジェリア出身のフランス人作家で、1957年にはノーベル文学賞を受賞しています。小説『ペスト』(1947年)は、執筆時にはファシズムへの批判が意図されていましたが、コロナ禍で、感染症に対して闘う人々の姿を描いた小説として新たな解釈を獲得し、世界中で読まれるようになりました。
物語はアルジェリアの中都市オナンである朝、階段下で血を吐いて死んでいるネズミが見つかるシーンから始ります。県はその事実を認めようとしませんが、街中に死者が出はじめ、程なく都市封鎖となります。主人公の医師リューは苦しむ人々を救おうと奔走しますが、街にはあやしげな薬を売って一儲けしようとする商人、キリストへの信心を説く司教、脱出を試みる新聞記者など様々な人物が現れます。特効薬とされる血清を打たれて子供が死んでいくシーンは最も残酷な描写でしょう。結局、リューの妻や司祭は亡くなってしまいますが、疫病はある時を境に収束します。最後にパーティーで花火が打ち上がる中、ペスト菌は完全に死滅することはなくどこかに潜んでいるとつぶやく語り手の正体が初めて明かされる構成も見事です。
(伊藤達也)