世界の長編小説に挑む!

白鯨(上・下)

ハーマン・メルヴィル 著(八木敏雄訳)
岩波文庫

 ハーマン・メルヴィルの『白鯨』は、モビー・ディックと呼ばれる巨大な白鯨に片足を奪われたエイハブ船長が、その復讐を果たすべく捕鯨船ピークオド号で白鯨を追跡する物語です。彼の白鯨に対する執念と狂気に乗組員たちは徐々に巻き込まれていき、船長に唯一反発するスターバックを残して、みなで白鯨との直接対決に向かって行くことになります。全3冊で1200ページを超える大長編ですが、白鯨との3日間に及ぶ死闘は物語終盤になってのこと。それまでの長い旅路は、船長の復讐劇に巻き込まれる個性的な船員たちや他の捕鯨船との出会いなどで彩られます。

 一見わかりやすいストーリーですが、実は『白鯨』を読むには相当の覚悟が必要です。メルヴィルの冗長な言い回しや宗教的モチーフはストーリーに深みを与えるのですが、これが文章を難解にします。また、途中挟まれる鯨や船舶に関する講釈に、読者は白鯨追跡に高ぶる気持ちをへし折られてしまうかもしれません。しかしこれらをグッと堪えて読み進めば、最後の激闘にたどり着いた時の高揚感は一層増すことになるでしょう。しかもこの難解な長編を読了したのですから、その達成感もまた格別なものとなります。

(ハンフリー恵子)