世界の長編小説に挑む!
罪と罰(全3巻)
世界文学の最高峰と目される長編小説で、物語の舞台は、19世紀後半のロシア。作者は、トルストイと並び称されるロシアの文豪フョードル・ドストエフスキー。農奴解放後の混乱した首都ペテルブルグの裏町で二人の女性が惨殺されます。一人は、高利貸しの老女、そしてもう一人は、その腹違いの妹。犯人は、ロジオーン・ラスコーリニコフという名の元大学生。青年は、アパートの屋根裏部屋にひきこもるなかで、奇怪な妄想を膨らませています。非凡人は、かりに正当な目的があれば、みずからの良心に照らして凡人の血を流し、新しい秩序を打ちたてる権利がある、というもの。そしてこの奇怪な選民思想を実行に移すべく、高利貸しの老女を斧で惨殺し、そこにたまたま姿を現した腹違いの妹までも巻き添えにしてしまうのです。犯行後、青年は、得体知れない孤独に苛まれるのですが、犯した罪にたいする悔いの念は生まれません。はたして、この青年に人間としての甦りの道はあるのか。とあるきっかけで青年と出会った若い娼婦ソーニャは、はたして彼を救うことができるのか。作家は問いかけます。「一つの小さな罪は、千の善行で償えるのか」と。人間心理の極限へと迫るこの小説は、同時に世界最高峰のサスペンス小説とも表される作品です。本を愛するものなら、人生のどこかの段階で一度は必ず出会わなくてはならない古典中の古典といってよいでしょう。
(亀山郁夫)