世界の長編小説に挑む!

存在の耐えられない軽さ

ミラン・クンデラ 著(千野栄一 訳)
集英社文庫

 人間の存在の価値を決定づけるのは何なのでしょうか?その存在に重みを与えるのは?そして存在に重みがあることは肯定的に捉えられるのでしょうか?そんな疑問への答えを示唆するのが、チェコ・スロバキア出身のミラン・クンデラによる名作、『存在の耐えられない軽さ』です。1968年に起きた「プラハの春」を背景に、主人公トマシュとその妻となるテレザ、そしてトマシュの愛人のサビナを中心として、彼らの関係とそれぞれの心理的な葛藤が描かれます。ニーチェの「永劫回帰」の言及から始まるこの物語の哲学的な要素に圧倒されず、まずは恋愛物語として楽しんでください。それでも物語の世界に入っていくにつれ、愛、自由、他者との関り、そして何よりも人間の存在への問いが沸き上がってくると思います。そしてこの作品は、性や肉体という恋愛の生々しい側面を描き出し、ロマンチックな恋愛像を崩しつつ、人を愛することとは何かという問題を読者に投げかけます。自分の存在について思いをめぐらせながら読み進めるうちに、人生で大切なものとは何かに気づかせてくれる一冊となるでしょう。

(吉本美佳)