世界の長編小説に挑む!

フランツ・カフカ 著(前田敬作 訳)
新潮社
カフカが書いた未完の長編小説『城』は、死後、友人ブロートによって再構成されました。その主人公である測量士Kが、伯爵の領地から測量の仕事を依頼されて城に向かいながら、仕事はできず、永遠に城には到達できないし、伯爵にも会えない。周辺の人々には邂逅できるのに、そこに不条理の世界があり、不可思議な感覚が描写されています。それこそ現代に疎外されている人間が経験しているのでしょうか。 カフカは、ハンガリー・オーストリア王国の中でチェコ語を話し、やがてドイツ語に親しみ、ユダヤ人の言葉イーディッシュ語さえ使いました。国家の所属と人種と多言語の多重性、そして保険協会の仕事と病気(結核)という間の曖昧で不透明な存在を、不安と不条理を感じながら、ドイツ語で作品を執筆したのです。一人称と三人称でやや曖昧な立場で語りながら。 『城』を完成する意図は途中で放棄され、友人によって焼却されるはずが20章に再編され、実際の意図と文体をそのまま残しながら、原型のパズルを解いてみせる楽しみもここには残されています。不思議な物語の主人公でありかつ語り手であるカフカは、可か不可か永遠に城を語り尽くすことはできません。

(福田眞人)