世界の長編小説に挑む!

細雪(全3巻)

谷崎潤一郎 著
新潮文庫

 1930年代の大阪を舞台にした「婚活小説」です。蒔岡家の四人姉妹の三女雪子は、姉妹のうちで一番の美人であるにもかかわらず、縁談がうまくまとまらず、三十を過ぎてもまだ独身です。姉たちは妹のために奔走します。その一方、末娘の妙子は自由奔放な生活を送ります…。

 『細雪』の魅力は何と言っても、言葉です。四人姉妹の会話はすべて上品な(?)関西弁で書かれています。「なあ、こいさん、雪子ちゃんの話、又一つあるねんで」「井谷さんが持って来やはった話やねんけどな」「サラリーマンやねん、MB化学工業会社の社員やて」全編がこんな調子です。軽快で、リズミカル。読み進めていくうちに、自分でもいつの間にか四人姉妹の言葉遣いを真似していることに気づきます。作者の谷崎は東京生まれ。生粋の江戸っ子です。40歳近くになってから関西に移り住みました。彼は言うなれば異国の言葉でこの小説を書いたのです。

文庫版で全3巻。けっして短くはありません。しかし、終わりに近づく頃には、まだ終わってほしくない、このままいつまでもつづいてほしいと願わずにはいられない、そんな小説です。

(木内尭)