世界の長編小説に挑む!

源氏物語(全10巻)

紫式部 著(瀬戸内寂聴 現代語訳)
講談社文庫

 『源氏物語』の全文を読み通した人は少ないでしょう。それを漫画にした大和和紀による『あさきゆめみし』を通して知っている人のほうが多いかもしれません。しかし原作の世界は漫画をはるかに超えて壮大です。全部で54帖、字数にして約百万字、登場人物は500人近く、作品の中に挿入された和歌は795首にのぼります。これは光り輝くほど美しい「色好み」の皇子、光源氏の栄華と没落と後日談を描いた作品ですが、ここで描かれる恋愛模様と人間心理の洞察は幽玄にして緻密、激しくまた奥深いものがあります。これが千年以上も前に書かれた作品だとは! 世界にも類例のない、日本が世界に誇るべき文学の奇跡と呼ぶべきものでしょう。若い読者の皆さんは海外に出たとき、日本の何はさておき、『源氏物語』の素晴らしさを語れてこそ、真の国際人です。ただし原文の古文は難しいので、まずは現代日本語訳で挑戦することをお勧めします。瀬戸内寂聴訳の他にも、谷崎潤一郎訳や最新の角田光代訳、またウェイリーの英訳を日本語に訳し戻した毬矢まりえ・森山恵の超訳まで、様々な現代語バージョンが出ているので、比較してみるのも面白いでしょう。

(沼野充義)