世界の長編小説に挑む!
巨匠とマルガリータ(上・下)
20世紀ロシア文学最大の傑作の一つとされる長編小説。作者はウクライナ出身の作家ミハイル・ブルガーコフ。ある日、モスクワ市内の公園で、イワンという名の詩人と文壇に影響力をもつ編集長ベルリオーズが議論を闘わせています。イエス・キリストは実在したか、否か。そこに突如姿を現した謎の人物ヴォラントが、イエスの実在を証言すると同時に、編集長ベルリオーズの遠からぬ死を予言します。ヴォラントの予言はたちまち実現し、衝撃を受けた詩人は病院送りとなり、そこでイワンは、「巨匠」と呼ばれる一人の不思議な人物と出会います。その人物は、イエスを死に追いやったピラトの苦悩を描く小説を書き上げたのですが、内容が反革命的であるとの理由で当局から拒否され、「巨匠」みずからが原稿を焼き捨てるという過去がありました。ヴォラントとその一味の出現によってモスクワ中が大混乱に陥りますが、そのヴォラントによって「巨匠」を慕う愛人マルガリータに試練にかけられます。その試練とは果たして何であったのか。1930年代のモスクワと 2000年前のエルサレムで起こる事件をパラレルに描くこの小説は、主に独裁者スターリンが権力をふるった1930年代に書かれ、作者の死後26年を経てようやく陽の目を見ました。小説中の一行「原稿は燃えない」は、独裁政治下における文学の不滅性を示す象徴的な言葉として今も広く人口に膾炙しています。
(亀山郁夫)