世界の長編小説に挑む!
感情教育(上・下)
20世紀には小説の新しい形としてヌーヴォー・ロマンやマジック・リアリズムが生まれますが、小説の原型として押さえておきたいのが19世紀のフランス小説、なかでもギュスターヴ・フローベール(1821-1880)の作品です。
『感情教育』(1869年)は1840年に大学入試に合格した18歳の主人公フレデリックが船上でアルヌー夫人に一目惚れをする場面から始まります。しかしパリでの大学生活は、資金難から中断を余儀なくされ、ようやく伯父の遺産で生活が安定した時には、二月革命という歴史の波に巻き込まれ、結局夫人への愛は遂げられずに終わります。フレデリックは、社交界の女性と関係を持ちながら、幻滅の中で人生をやり過ごすようになります。物語の最後では、破産し地方でひっそり暮らすアルヌー夫人がフレデリックを突然訪ね、彼の愛に対し、白くなった髪を一房切り取って渡します。エピローグで初老の年齢に達したフレデリックは幼馴染と再会し、過去に出会った人々の消息を確かめつつ、「あのころがいちばんよかった」と世間知らずだった中学の頃を懐かしみます。
若い読者には娯楽性が足りないかもしれませんが、30年後に再読すると人生というものは確かにこうだと感嘆するかもしれません。玄人受けする小説です。
(伊藤達也)