世界の長編小説に挑む!

風の影(全7巻)

カルロス・ルイス・サフォン 著(木村裕美 訳)
集英社文庫

 1冊の本との出会いが、あなたを稀有な人生に導きます。この小説の最初の主人公、10歳のダニエルのように。スペイン生まれの作家ルイス・サフォンの、「風の影」から始まる長編ミステリー4部作です。内実はゴシック・恋愛ロマン・ハードボイルド・ファンタジーと、読ませる仕掛け満載。緻密な現代小説なのに、雰囲気は19世紀のディケンズ、デュマなどの読み物文学に近いのです。15年に及ぶ執筆の3年後、作者のサフォンは2019年に55歳で亡くなりました。「雲間から燃える客車が投げ落とされるような空爆」「雪は神様のフケですな」。魔都バルセロナを襲う19世紀末の騒擾から、両大戦と内戦を経てフランコ独裁へ。詩的で滑稽な描写とともに、時系列は宇宙創成のように乱れ、読者も無傷ではいられません。謎の作家カラックスに始まる小説の顛末がメインストリーム。巻き込まれ、成長と停滞を繰り返す人々。奇妙でふざけた古書店員や、最終巻のとんでもないお姉さま調査員など、全てが生き生きワクワクと心躍ります。読者は壮絶な人生(複数)に溺れ、刻印されるのです。バルセロナの古書店センベーレと、図書館「忘れられた本の墓場シリーズ」をぜひ探訪しましょう。

(川端博)