世界の長編小説に挑む!

永遠の都(全7巻)

加賀乙彦 著
新潮文庫

 加賀乙彦の代表作『永遠の都』は、昭和一〇年から二二年までの日本を舞台に、戦争へと急速に傾斜していった流れとその結末を描いた大河小説です。そこでは、歴史の流れに翻弄されならも研究や発明や芸術や恋愛の中で生の喜びを享受しながら生きていく人々の平和な暮らしが緻密に描かれ、それが戦争の歴史という「大きな物語」と渾然と絡み合いながら、悠々と進んで行きます。これはまさに加賀版『戦争と平和』に他なりません。

 本書は二・二六事件、紀元二六〇〇年記念式典、太平洋戦争の開始、疎開、東京大空襲、敗戦などの出来事を次々に描き、激動の歴史を扱った――しかも、膨大な史料の調査に基づいた――第一級の歴史小説になっています。しかし、本書を生き生きとした小説にしているのは、その中で精彩を放ち、強烈な生の輝きを読者の目に焼き付かせる個性的な登場人物の数々です。

 ここで加賀乙彦は、長編小説という形式に秘められた可能性を極限まで追求しています。これは二〇世紀末に日本語で書かれた、最も小説らしい小説の一つだと言えるでしょう。そして私たちに何よりも、長い長い小説を読む喜びを取り戻させてくれます。

(沼野充義)