世界の長編小説に挑む!

失われた時を求めて(全14巻)

プルースト 著(吉川一義 訳)
岩波文庫

 ある日、「私」が紅茶に浸したマドレーヌ菓子を口に含むと、それまで忘れていた過去の思い出が一気に蘇り、「失われた時」をめぐる探求が始まる…。文庫版で全14巻に渡る壮大な物語の幕開けです。

 『失われた時を求めて』はとにかく長い小説です。しかも、密度の高い文章が延々とつづき、少なからぬ集中力を求められます。しかしだからと言って、読まずにおくのはもったいない。文学の豊饒さをここまでとことん味わえる作品は他にないからです。初めての人にはまず、第2巻「スワン家のほうへII」に収められた「スワンの恋」を読むことをお勧めします。社交界の寵児スワンと粋筋の女オデットの恋愛を描いたこのパートは、独立した恋愛小説として読むことができ、プルースト一流の心理分析も存分に堪能できます。

 プルーストによれば、私たちは本を読むとき、「自分自身の読者」になるのだといいます。本を読みながら、私たちは自分自身の内面を読んでいるのです。プルーストの小説ほど、「自分自身の読者」になるのに適した小説はありません。『失われた時を求めて』を読むことで、きっと新しい自分に出会えるはずです。

(木内尭)