世界の長編小説に挑む!

嵐が丘(上・下)

エミリー・ブロンテ 著(小野寺健 訳)
光文社古典新訳文庫

 究極の愛ってどういうものだろう? その答えのひとつが『嵐が丘』のなかにあります。キャサリンとヒースクリフの愛は、実らない。実らないがゆえに、激しくなっていくばかり。その強烈さは、ついに生死の境を超えていきます。ドロドロの愛憎にまみれた人間関係、度を超えた痛いほどの激しい感情、正直なところ、現実では目にすることがない、目にしたくない極端さに圧倒されます。窓から幽霊の手が入ってきたり、死体を掘り起こしたりとゴシック要素も満載です。とはいえ、物語の構成や人物描写がしっかりしていて、読み進めるのは苦になりません。あまり外に出なかったと言われている若い女性が、こんなにスケールの大きい傑作を書いたのは驚くばかりです。映画、テレビドラマ、舞台、音楽など関連作品も数多く、かなり影響力のある作品と言えます。この小説をベースにした、水村美苗『本格小説』もおすすめです。『嵐が丘』を読んでおくと、その面白さは倍増するでしょう。

(甲斐清高)