世界の長編小説に挑む!

赤と黒(上・下)

スタンダール 著(野崎歓 訳)
光文社古典新訳文庫

 舞台は1820年代のフランス。ナポレオンの失脚後、フランス社会は革命前の旧弊な時代に逆戻りしていました。そんな中、貧しい生まれの青年ジュリアン・ソレルはナポレオンに憧れ、美貌と才知を武器にして立身出世を試みます。『赤と黒』は、今風に言えば「親ガチャ」でハズレを引いた若者の物語です。ジュリアンは逆境をバネにして、理不尽な社会に孤独な戦いを挑みます。

 ジュリアン・ソレルには何だかアイドル的なところがあります。この青年にはとにかく女性ファンが多いのです。レナール夫人とマチルドという二人の魅力的な女性をたちまちのうちに虜にしてしまうし、結末近くの裁判の場面では、彼を一目見ようと物見高い女たちが裁判所に殺到します。読者もまたこの小説を読んでいるうちに、ジュリアンを「推し」たくなってくるはずです。男女問わず、つい応援せずにはいられなくなるような、そんな不思議な魅力をこの主人公は持っています。

 フランスでは2016年に『赤と黒』を原作としたミュージカルが上演され、好評を博しました。ジュリアン・ソレルのアイドル的魅力は今なお健在です。

(木内尭)