世界の長編小説に挑む!
赤い高粱(正・続)
時代は中華民国期、舞台は作者莫言(モーイエン、ばくげん、一九五五~)の故郷山東省高密県に設定された架空の村、この地で興亡する一族の波乱の半世紀を、一九八〇年代の現在(文化大革命終息後、間もない時期です)において孫の代の「わたし」が物語るのです。
そこでは日中戦争期に祖父が率いた抗日ゲリラ部隊の話が中心を占め、小説第一部は一九三九年旧暦八月九日、司令官の祖父と共に一四歳の父が出撃する場面から始まります。部隊が高く生い茂る高粱畑を進み出すや一転して少年時代の「わたし」が登場、放尿しながら♪高粱赤く実れば、日本人がやってきた、同胞たちよ覚悟はよいか、銃と砲とをぶっ放せ、と往年の戦歌を歌う――それはフラッシュバックの手法ですね。
本作では、親子、夫婦などの家族関係が主人公たちにより大胆に組み替えられます。祖母はロバ一頭の結納金に目がくらんだ曾祖父により造り酒屋の伝染病の息子の嫁に出される。しかし鋏を握って新郎を拒み通し、三日目の里帰りの途中、花嫁の迎えの轎の担ぎ手だった祖父にさらわれ高粱畑で結ばれる。そして祖父は酒屋の親子を殺す・・・・
それは近世から近代への転換期を生きる中国農民の魔術的リアリズムの物語なのです。
(藤井省三)